FIREは、働かなくても生活できる状態として語られることがあります。
必要な資産を作り、仕事を辞め、自由な時間を手に入れる。会社員生活から完全退職へ移る一本の線として考えると、目標は分かりやすくなります。
けれども、FIREを望む人が、本当に欲しいのは「仕事が一つもない毎日」なのでしょうか。
仕事そのものを嫌っているとは限りません。誰かの役に立つこと、技術を使うこと、収入を得ること、人と関わることまで手放したいわけではない人もいます。
それでもFIREという言葉にひかれる。
だとすれば、欲しいのは退職ではなく、仕事に対する選択権なのかもしれません。
この記事では、FIREを「働くか、働かないか」の二択ではなく、どこまで自分で選べるかという問題として考えます。
仕事が嫌なのか、辞められないことが苦しいのか
仕事について考えるとき、内容と拘束は混ざりやすいものです。
仕事の内容には意味を感じていても、週に五日、決まった時間に働き続けることが苦しい場合があります。職種は嫌いでなくても、今の上司や顧客、職場環境から離れたいことがあります。働きたい気持ちはあっても、体調や家族の事情に合わせて量を変えられないことがあります。
このとき「仕事を辞めたい」という言葉は、必ずしも仕事をゼロにしたいという意味ではありません。
今の条件では続けられない。嫌な環境から離れたい。疲れたときに休みたい。収入が減ることを恐れず断りたい。
辞めたいのは仕事そのものではなく、選べない状態かもしれません。
完全退職だけを答えにすると、この違いが見えなくなります。
お金が作るのは、無職の時間だけではない
資産形成の効果は、いつか生活費のすべてを賄えるようになることだけではありません。
生活を支える余裕が少しあれば、すぐに別の選択肢が生まれます。
- 合わない仕事を断る
- 働く日数や時間を減らす
- 収入が下がっても、負担の小さい仕事へ移る
- 一度休んでから、次の仕事を探す
- 一つの勤務先だけに依存しない
どれも完全FIREではありません。働いて収入を得る状態は続きます。
それでも、「この仕事を失ったら生活できない」という状態からは少し離れられます。
お金は、仕事をなくすためだけに使うのではなく、仕事との距離を変えるためにも使えます。
選択権には、いくつかの種類がある
働き方の自由を一つの数字で表すのは難しいものです。
収入が多くても、時間や相手を選べなければ自由とは感じにくいかもしれません。反対に、収入が下がっても、働き方を調整できることで暮らしが安定する場合があります。
FIREを選択権として見るなら、少なくとも五つの面があります。
1. 断る選択権
条件の悪い仕事、無理な依頼、合わない環境から離れられることです。
2. 量を選ぶ権利
週五日かゼロかではなく、週三日、短時間、期間限定など、働く量を動かせることです。
3. 相手と場所を選ぶ権利
誰と働くか、どこで働くかを変えられることです。仕事内容が同じでも、環境が変われば負担は大きく変わります。
4. 休んで戻る権利
一度仕事を減らしたら元に戻れないのではなく、必要に応じて休み、また働けることです。
5. 収入源を分ける権利
給与だけ、配当だけ、事業だけに頼るのではなく、複数の小さな収入や資産を組み合わせることです。分散には管理の手間もあるため、多ければよいわけではありません。それでも、一つが止まればすべてが止まる状態を弱めることはできます。
完全FIREは、これらをまとめて実現する一つの方法です。しかし、すべてを同じ日に手に入れなければならないわけではありません。
完全FIREには、分かりやすさがある
選択権として考えると、FIREの境界は曖昧になります。
週に何日なら自由なのか。資産収入が生活費の何割なら達成なのか。働きたいから働いているのか、まだ働かなければならないのか。
答えは人によって変わります。
その点、完全FIREは分かりやすい目標です。労働収入がなくても生活できる状態を目指せば、必要額や進捗を計算できます。仕事を続けるかどうかも、生活費とは切り離して決めやすくなります。
完全FIREを目指すことには意味があります。
ただし、分かりやすいゴールだけを見ると、そこへ届くまでを「まだ自由ではない期間」と考えてしまいます。
資産形成が途中でも、すでに断れる仕事が一つ増えたかもしれません。固定費が下がり、必要な収入が少し減ったかもしれません。数か月休める資金ができたかもしれません。
完全ではなくても、選択権は途中から増えていきます。
働く量を減らし続けなくてもよい
FIREへの道を、週五日から週四日、週三日、最後にゼロへ進む階段として考えることがあります。
しかし、働き方は一方向に変える必要はありません。
疲れている時期には仕事を減らす。お金が必要な時期には少し増やす。面白い仕事に出会えば、もう一度多く働く。体調や家族の事情が変われば、再び調整する。
週三日から週四日に戻ることは、失敗ではありません。
選択権があるなら、働く量は減らすだけでなく動かせます。
この見方では、自由とは仕事が少ない状態ではなく、自分の事情に合わせて仕事との距離を変えられる状態です。
収入源の分散にも代償がある
給与以外の収入があれば、勤務先への依存は小さくなります。
一方で、収入源を増やすほど自由になるとは限りません。副業、投資、事業、不動産などは、それぞれ管理、学習、変動、責任を伴います。
収入を分散した結果、休日まで複数の仕事を管理することになれば、時間の裁量は減るかもしれません。
大切なのは収入源の数ではなく、一つが止まったときに選び直せるかどうかです。
分散は目的ではなく、選択権を支える手段です。
FIREまでの進捗を、資産額だけで測らない
FIREを選択権として考えるなら、進捗の見方も変わります。
資産額や運用収益だけでなく、次のような問いを持てます。
- 生活に必要な固定費は軽くなったか
- 収入が一時的に減っても耐えられる期間は増えたか
- 断れない仕事は減ったか
- 働く時間を調整できる余地はあるか
- 一つの収入源が止まっても、すぐにすべてが崩れないか
- 休んだあとに戻れる技能や関係を残しているか
これらが増えても、FIREを達成したことにはならないかもしれません。
しかし、生活の自由は確実にゼロか一かではなくなります。
仕事を辞める日を、今決めなくてもよい
FIREしたいのに、仕事を完全に辞めたいのか分からない。
それは、目標が曖昧なのではなく、欲しいものが退職だけではないからかもしれません。
働くことに意味を感じる日もあれば、離れたい日もあります。収入の安心が必要な時期もあれば、時間を優先したい時期もあります。今の答えが、数年後も同じとは限りません。
だから、完全に辞めるか、ずっと続けるかを、今決めなくてもよいのでしょう。
代わりに、あとから選べる状態を作っておく。
仕事を断れる。量を変えられる。環境から離れられる。収入への依存を分けられる。必要なら休み、また戻れる。
FIREには、まだ遠い。
それでも、選択権はゴールに到着した日に突然生まれるものではありません。遠い途中でも、一つずつ増やしていくことができます。
このサイトが考えたいFIREは、仕事のない人生だけではありません。
仕事に人生の形を決められず、その時々の自分に合わせて働き方を選び直せることです。

