投資を始めると、普通預金に置いたままのお金が働いていないように見えることがあります。相場が上がっている時期ほど、「この現金も投資に回していれば」と考えやすくなります。
しかし、生活防衛資金の役割は、資産を増やすことではありません。必要なときに、価格を気にせず使える状態を保つことです。
現金は増えにくい代わりに、売る判断がいらない
投資商品は、長期では成長を期待できても、必要になった日に値下がりしている可能性があります。現金なら、市場価格を確認せず、そのまま支払いに使えます。
この違いは、利回りの比較表には表れにくいものです。現金の価値は収益率ではなく、「いつでも額面どおり使えること」にあります。
投資に回した瞬間、二つの判断が増える
生活防衛資金まで投資すると、いざ支出が必要になったときに、何を売るか、今売ってよいかを決めなければなりません。
相場が上がっていれば売りやすく見えますが、まだ上がるかもしれないと迷います。下がっていれば、損失を確定したくない気持ちが生まれます。どちらの場合も、支払いとは別に投資判断が必要です。
評価額や配当は、いつ「使えるお金」になるのかでも触れたように、資産の評価額と、迷わず支払いに使えるお金は同じではありません。
機会損失は、保険料のようにも考えられる
たとえば、生活防衛資金として120万円を現金で置き、投資なら年4%の収益が得られたと仮定すると、表面的な機会損失は年4万8,000円です。これは将来の収益を保証する数字ではなく、役割の違いを考えるための仮定です。
その金額で、急な支出のときに投資商品を売らずに済み、相場が下がっている時期にも生活を維持できるなら、単なる損失ではありません。不確実な時期に判断を急がなくてよい権利へ払うコストとも考えられます。
必要額は、支出額だけでは決まらない
生活防衛資金の大きさは、何か月分という一つの基準だけでなく、収入の安定性や支出の調整しやすさにも左右されます。
- 収入が止まったとき、再開までどの程度かかるか
- 毎月の固定費をすぐ減らせるか
- 近い将来に大きな支出が予定されているか
- 相場下落時にも投資を売らずにいられるか
同じ生活費でも、収入源が一つで復旧に時間がかかる人と、複数の収入があり支出も調整しやすい人では、必要な現金余力が違います。
現金は、投資を続けるための余白でもある
現金を持つと投資効率は下がって見えます。しかし、その余白があるからこそ、急な支出のたびに積立を止めたり、値下がり中に資産を売ったりせずに済みます。
相場が動いたとき、積立額を変えるべきかを考えるときも、相場とは別に使える現金があるかどうかで判断の落ち着きは変わります。
生活防衛資金を投資に回さないことは、増える可能性を一部手放す選択です。同時に、悪いタイミングで売らない自由を買う選択でもあります。もったいないかどうかは利回りだけでなく、その現金がどの判断を不要にしているかで考える必要があります。

